最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)877号 判決 1953年6月04日
飯塚市新飯塚五丁目
上告人
岡本秀英
福岡県嘉穂郡幸袋町目尾六一五番地
同
桑野貞美
飯塚市鯰田二二五番地
被上告人
上田清
右当事者間の取込金返還請求事件について、福岡高等裁判所が昭和二七年六月三〇日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
原判決は、上告人両名は訴外管崎繁雄と共謀して、被上告人が訴外下川義美に対し鉱区使用権設定の対価として支払うべく委託した被上告人に属する金員の中六万五千円を擅に消費横領したという共同不法行為と認定して上告人等に対し連帯して右金員とこれに対する昭和二五年八月八日から支払済までの年五分の損害金の支払を命じたものである。(民法七一九条参照)されば上告人岡本秀英の上告理由は事実誤認、及びそれを前提とする法令違反の主張を出でないものであり、また上告人両名の上告理由は単なる法令違反の主張であり、(民法五〇九条参照)すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(上告人桑野貞美の上告理由は期間後の提出にかかるのでこれに対しては説明を与えない)
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)
昭和二七年(オ)第八七七号
上告人 岡本秀英
被上告人 上田清
上告人の上告理由
一、昭和弐十五年三月私くしの親友で有る飯塚市裁判書士下川義美氏の所有で有る鉱区の売却方を依頼されて居りました処同年四月始め飯塚市鯰田の三浦七郎氏が参られて自分と有る人と炭坑する事になつた故貴殿の心配されて居る鉱区を採堀させてと再三再四参られますので鉱区主下川氏の処へ参り相談致しました処話がまとまりまして資本家の上田清と代理人管崎繁雄、三浦七郎三氏鉱区主下川氏と相談の上私達に世話料として弐万円を出す事になりました。
其の後四月に十五日間、五月に十七日間、六月に六日間計参拾八日間働いて来ました。実は炭坑が大きくなれば相当な給料を出すからと言ひますので先をたのしみに働いてきましたので有ります。しかるに鉱区の売買が成立致しまして私くしは弐万円を二回に渡り世話料並に手伝料として領収書て戴きました。決して取込金ではありません。其の後に於いて上田氏等は資本金困難の為め事業を中止する事になりました。処が私くしの戴いた弐万円の金を渡せと数回に渡りボス的人物をつれて強迫に来ましたので今金を支払と言われも三月以上此の鉱区の世話して来ので借金はして居るし今として支払事が出来ないと言ひました処同年八月四日に自分の内(上田宅)まで来いと言ひますので行ました処、私くしの方(三浦、桑野、岡本)三人、先方(上田親子、神上、管崎)四人、其の内の神上氏と言ふ人物が内には若者二、三人居る故人を殺すぐらいなんでもないと強迫するので私くし等は借用証に拇印ををしました。
借用証の金額は六万五千円になつて居りますが弐万五千円三浦七郎、弐万円桑野貞美、弐万円岡本秀英、此の証書も三浦七郎氏が作成したので有りますが上田氏外数名の者より脅されて書いたもので証書の内容は其の時はしらずに私達等は拇印したので有ります。
其の後三浦七郎氏は逃走したので上田氏は桑野貞美、私くし(岡本秀英)二人を告訴したので有りますが桑野氏も私くしも失業して居りますのでどうする事も出来ず居るので有りますが上田氏方は金は有り弁護士は立てるし私方より立た証人は買収するし私くし等の言分は一言も聞き入れられないので有ります。日本の法律は弱い者いじめる法律で有りましようか。今一度再取調べを御願申上ます。
私くしも無理は申上ませんが昭和弐十六年二月十三日私くしの家を仮差押して居ります(但し六万五千円方)が私くしとしては弐万円を戴いて居ので外四万五千円は三浦、桑野両氏が使つて居るので其の金額まで私くしに支払へと言われるのは、たとへ法律が如何に有るとも無理では無いでしようか。万一私くしの家を取られ様な事になれば親子五人が路頭にまよはなければなりません。私くしも昭和二十年三月十四日大阪にて戦災にて家は焼かれ野に寝る事が数十日で有りました。現在の飯塚へ帰国致しまして一生県命働いて家を買ひました。其の家を人の為めに取られるとなれば今から先私くし等五人の者はどんなになるでしようか。御願ひで有ります、今一度御取り調べ下さい、御願申上ます。
福岡高裁で三浦七郎氏を証人に立てましたが一度調べただけで、にわかに信用することができないと言ひます。一度で信用ができなければ二度調べて下さいと御願致しましたが聞入なく判決を下されましたが、私くし等の様な弱い者、法律を知らない者にはどこを御便りしてよいでしようか、御願ひ致します。先日最高裁判官審査の時新聞も見ました。又ラジオも聞きました。たゞしい御話で有りました。不公平な裁判は決してしないと言ふ事で有ります。どうか御願ひで有ります、御助け下さい、もう一度御取調べ下さい、御願申上ます。
以上
昭和二七年(オ)第八七七号
上告人 桑野貞美
被上告人 上田清
上告人の上告理由
当時昭和二十五年四月二十八日に住所福岡県飯塚市鯰田より三浦七郎氏尋ね来り、同市内地区登録第九〇三七号石炭鉱区鉱業権者下川義美氏の所有の鉱区内に於て事業経営致すに付き原告上田清氏の代理人として私に是非共実地調査及測量の件に付きて似頼に来たなれ共私も目下石炭積込事業の請負中にて一応ことわりましたが三浦氏のあまり熱心なる故二十万坪余の測量を二万円也にて引受、速時測量に従事、山林及原野一対の測量に機械一式据付測量未完成の内此々に下川義美氏との間に置いて権利金として一金五万円也を払込、其の内の壱万五千円也を測量手数料として受取り居りたる事が後日に至りて書類を閲覧致しましたが当時の出来は私としては一済話も聞かず手数料は一銭も受取つていません。最後測量終了の結果此の鉱区内の採堀は非常に困難で有る故一応見合る事に致しましたが三浦氏の話にては自分で金を受取りて消費致している故何んでもよいから坑口一ヶ所を開発致せば権利金は下川義美氏のものにて消滅致す様に成つているからと再々話を致しますなれ共三浦氏は自分の利益に一方的の考へを持つていた事が現在に至りてはつきりして来ました。私も之以上上田氏に迷惑を懸ける事は忍びないので測量手数料を受取つて一応中止を致す決心にて居りましたが三浦七郎氏の話では此の鉱区に望みがなければ別に同市内の下川氏の鉱区が有るのでその鉱区の調査方を頼むので登録第九〇三六号にて二十万坪余有の鉱区の実地調査に行きたるに三浦氏の話では此の鉱区は土地の調査及隣接の鉱区堺は麻生鉱業本社にて調査済と成つているので速時事業に着手出来るとの話故私も安心を致し下川氏に面接致し当時の権利金又模様を聞き三浦氏に面接なし私は責任は取れないので貴殿の方にて話を致す様申込たる結果三浦氏が上田氏の代表者として下川氏と上田氏との間の契約締結をなす事に成り其の節の話によれば権利金は一応十五万円也と定めていた模様で有ります。而、私は当初の鉱区測量の手数料は支払なさず点々と鉱区の位置を変へる故三浦氏に手数料の請求をなしたる決果実は今回の十五万円也の権利金を十万円也に下川氏が減額を致す事に成つた故五万円也の内私に二万円也を持つて来て受取りましたが之は謝礼で有るから上田氏宛に領収書を作つて渡すので私の印鑑及岡本氏の捺印もいるので是非との話故三浦氏自分勝手に領収書を作り上田氏に渡しています。後日裁判に成つたる節に法廷にてその書類を見たのですが三浦氏の捺印も無く驚いた次第です。愈々最後に至り事業開発の準備に成つて見れば此の鉱区は下川氏の鉱区にあらず麻生本社の鉱区なる故再度測量にかかり土地一済の話も出来あがりたるに愈々着手、予算表を作製致したるに資金困難と決定一応引上げましたが其の間の日数は七十日以上出勤致し五万円以上借金を作つたので有ります。其の後三浦氏は一ヶ年以上逃走をなし責任を私等にかけていた事がわかつたのです。
而し此の裁判は一ヶ年以上過ぎて問題と成つていますが当初より炭鉱開発を致す意志は無かつたと思われます。而るが故に今だに三浦氏は最近帰宅致しているのに上田氏は三浦氏を告訴せぬのは何故で有るかと訴へている次第です。私は測量に関する他の諸雑費の費用は上田氏の手元より出資致す事に成つていますから私としては上田氏に支払可きものでは有りません。私は二万円也の外働いた労銀は基準法に依りても上田氏が支払可きものと思います。之は上田氏及三浦氏責任にて私等に責任を取らせる事は不当と思います。現在では上田氏と三浦氏の合議の上協定を取つているものと思われます。当時の事件に付きては立派な証人がいます。其の証人も上田氏宅目下不仲と成り居る次第で有ります。私は弁護人も雇ふ力もなく上田氏は有証人等には口止を致して金力によつて策働を致して居ります。私は出来るだけの働力は致して来たつもりです。何卒右様なる答弁書で御座いますから御観大なる御判定を下さいます様御願致ます。
以上
昭和二七年(オ)第八七七号
上告人 岡本秀英
同 桑原貞美
被上告人 上田清
上告人の上告理由
一、上告人は、被上告人の請求する債務は、真実の取込金に非ず、上告人が鉱区売買の仲介料として、被上告人より支払を受けたるものなり。
万一、取込金として有効に成立するものとせば、上告人は被上告人より仲介手数料として対等額の債権を有するものなれば、民法第五百五条により、本件債務は計算上、対等額に付き相殺すべきものにして、上告人は、当然、相殺により其の債務を免るゝことを得べきものなり。
然るに、前審に於ては、此の法則を適用せず、且つ法律に違背して事実を確定したるものなれば、前判決の破毀を求むるため本訴に及びたる次第なり。
以上